1. 何が変わる?仕入税額控除の経過措置とは
「外注先がインボイス登録をしていないと、消費税が増えると聞いた。いつから、いくら変わるの?」
この疑問は、支払った外注費が経費になるかと、消費税をいくら差し引けるかに分けると整理できます。
原則課税では、売上に係る消費税から、仕入れや経費に係る控除可能な消費税を差し引きます。これが仕入税額控除です。
インボイス制度では、この控除を受けるために、原則として一定の帳簿とインボイス等の保存が必要です。登録していない相手はインボイスを発行できないため、原則どおりなら控除できません。[出典:国税庁・適格請求書等保存方式]
ただし、負担が急に変わらないよう、一定期間は税相当額の一部を控除できる経過措置があります。この割合と期間が、2026年度改正で見直されました。
「免税事業者」だけが対象ではない
対象となる相手は、正確には「適格請求書発行事業者以外の者」です。
免税事業者だけでなく、消費税の課税事業者でもインボイス登録をしていない相手などが含まれます。相手の売上規模を推測するより、取引時点の登録状況を確認することが大切です。
なお、この記事は国内の通常の外注サービスなど、消費税の課税仕入れに当たる取引を前提にしています。給与や住宅家賃などに、この割合を一律に掛けるものではありません。[出典:国税庁・課税売上げと課税仕入れ]
関連記事:消費税の仕組みをやさしく解説|個人事業主は何を計算して、いつ納める?
2. 2026年以降の控除割合を年表で確認する
2026年度改正後のスケジュールは、次のとおりです。
課税仕入れを行う期間 | この経過措置による控除割合 |
|---|---|
2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% |
2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
2031年10月1日以後 | 控除なし |
以前の予定では、2026年10月から50%となる見込みでしたが、改正により70%となりました。経過措置が終わる時期も、従来の2029年10月から2年後に移っています。
ウェブ上の古い記事にある「2026年10月から50%」「2029年10月から控除なし」を、そのまま使わないように気をつけましょう。[出典:国税庁・令和8年度税制改正特集]
2割特例・3割特例の「割」とは別の話
名前に同じ割合が出てきますが、見る場所が違います。
制度 | 何に対する割合? |
|---|---|
2割特例・3割特例 | 自分の売上に係る消費税のうち、納付額を計算する割合 |
80%・70%・50%・30%控除 | 対象となる仕入れの消費税相当額のうち、差し引ける割合 |
「3割特例を使うから、外注費の30%だけ控除する」という意味ではありません。計算方法と、取引ごとの控除割合は分けて確認します。
関連記事:2割特例はいつまで?2027年からの3割特例と個人事業主の準備
3. 外注費11万円なら、控除できる金額はいくら?
インボイス未登録の外注先に、税率10%の対象となる仕事を依頼し、対価として11万円を支払うとします。
買手は原則課税で、経過措置の保存要件を満たし、課税売上割合などによる控除制限はないものとします。
まず、支払額に含まれる消費税相当額を計算します。
11万円 × 10 ÷ 110 = 1万円
この1万円に、その時期の控除割合を掛けます。
控除割合 | 控除できる金額 |
|---|---|
80% | 8,000円 |
70% | 7,000円 |
50% | 5,000円 |
30% | 3,000円 |
経過措置終了後 | この措置による控除は0円 |
2026年9月までの80%と、10月以後の70%では、同じ11万円の取引1件あたり、控除額が1,000円減ります。ほかの条件が同じなら、消費税の納付額はその分増える計算です。
11万円全体の30%が控除できなくなるわけではありません。 金額の見積もりでは、税相当額と支払総額を区別しましょう。
対象の外注費が年間110万円あるなら?
同じ条件の取引が合計110万円なら、税相当額は10万円です。すべて80%の期間なら8万円、すべて70%の期間なら7万円を控除するため、差は1万円です。
ただし2026年は、9月までと10月以後で割合が異なります。年間の対象外注費に一律70%を掛けず、それぞれの期間に分けます。
この例は控除割合だけを比べたものです。実際の納付額は、ほかの取引や適用する制度も含めて計算します。
4. 自分に影響する?計算方法と取引内容で確認する
原則課税なら、仕入先ごとの確認が必要
原則課税では、実際に控除できる仕入税額を計算するため、この変更が直接関係します。
外注費や機材購入費のうち、未登録の相手との取引がどれくらいあるかを確認すると、影響を見積もりやすくなります。
一方、適格請求書を受け取る取引は、この経過措置の70%等で計算する取引とは分けます。
簡易課税や2割・3割特例では、個々の控除額を計算しない
これらの方法は、売上税額と一定の割合で納付額を計算します。そのため、この取引の控除割合が80%から70%になること自体では、計算上の納付額は変わりません。
ただし、将来原則課税へ移る予定があるなら、登録状況や請求書を確認できるようにしておくと役立ちます。[出典:国税庁・インボイス制度について]
関連記事:原則課税・簡易課税・2割特例の違いは?個人事業主の消費税を同じ売上で比較
税込1万円未満なら、別の「少額特例」も確認する
一定規模以下の事業者には、税込1万円未満の課税仕入れについて、所定の帳簿だけで仕入税額控除を受けられる少額特例があります。
対象者は、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下などの条件を満たす事業者です。期間は2023年10月1日から2029年9月30日までです。
この特例を使える取引は、相手が未登録でも、70%等の経過措置ではなく通常の仕入税額控除として扱えます。1万円未満かは、原則として1商品ずつではなく、1回の取引単位で判断します。[出典:国税庁・少額特例の概要]
このほかにも公共交通機関の利用など帳簿のみで控除できる取引があります。「未登録の相手=必ず70%」と一括して処理しないことが大切です。
5. 控除を受けるための書類と記帳
経過措置を使うには、所定の事項が記載された請求書等と、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿の保存が必要です。
請求書等では、発行者、取引日、取引内容、税率ごとの税込対価、受領者など、区分記載請求書等と同様の事項を確認します。帳簿には通常の取引情報に加え、「70%控除対象」など、経過措置を使う取引であることがわかるように記録します。[出典:国税庁・経過措置の保存要件]
登録番号がないからといって、請求書を捨ててよいわけではありません。経過措置の適用にも、所得税の経費確認にも必要な資料です。
1社・1人との高額取引には上限もある
2026年度改正では、1つの未登録先からの課税仕入れの税込合計額が、その年・事業年度で1億円を超える場合、その超過部分には経過措置を使えないことになりました。
この上限の見直しは、2026年10月1日以後に開始する課税期間からです。通常の暦年の個人事業主なら、2027年分からの適用となります。70%への変更時期と同じではない点に注意してください。[出典:国税庁・控除限度額の見直し]
6. 2026年10月に向けて確認したいこと
まず、自分が原則課税で申告するのかを確認します。そのうえで、対象取引について次を整理しましょう。
取引先の登録状況。 請求書や公表情報から、取引時点で登録されているか確認する。
課税仕入れの時期。 9月までと10月以後の取引を区分できるようにする。
別の特例の対象か。 税込1万円未満の少額特例などを確認する。
帳簿と書類。 控除割合を判断できる記録と、必要な請求書等を残す。
納付額への影響。 対象取引の税相当額と控除割合で試算する。
振込日だけで割合を決めない
適用時期は、原則として課税仕入れを行った時期で確認します。通常の取引では、納品や役務提供の完了などを基に判断します。
請求書の発行日や振込日だけを見て、すべて10月の取引として処理するとは限りません。月をまたぐ契約や前払いがある場合は、取引内容に応じて確認しましょう。
会計ソフトでは、税区分と自動登録ルールを確認する
同じ支払先に毎月払っている場合、以前の「80%控除」の設定がそのまま残っていないか確認します。ソフトが日付から自動で切り替える場合も、登録した取引日や相手先情報が正しいことが前提です。
なお、控除割合が減ることは、外注費全体が経費にならなくなることや、契約金額が自動的に下がることを意味しません。所得税上の費用処理や契約条件とは分けて考えます。
税抜経理では、仮払消費税として区分する額と、費用・資産に含める額の確認も必要になります。まず対象取引を洗い出し、消費税の申告方法と帳簿の両方に反映させましょう。






