1. 3つの方法は「差し引く金額」の決め方が違う
「2割特例が使えると安くなるらしい。でも、簡易課税とは何が違う?」
制度名だけを並べると難しく見えますが、出発点は共通しています。
消費税は、売上に係る税額から、仕入れなどに係る控除額を差し引いて計算します。その差し引く金額をどう決めるかが、3つの方法の主な違いです。
計算方法 | 差し引く金額の決め方 |
|---|---|
原則課税(一般課税) | 実際の仕入れ・経費などから、控除できる税額を計算 |
簡易課税 | 売上税額×事業区分ごとの「みなし仕入率」 |
2割特例 | 売上税額×80%。結果として納付額が売上税額の20%になる |
この記事の計算例は、消費税・地方消費税を合わせた概算です。返品や中間納付、端数処理などがないケースで比較します。 消費税の仕組みの基礎は以下の記事もぜひ参考にしてください。
関連記事:消費税の仕組みをやさしく解説|個人事業主は何を計算して、いつ納める?
2. 原則課税:実際の仕入れや経費を確認する
原則課税は、実際の取引に基づいて仕入税額控除を計算する方法です。国税庁の案内では「一般課税」と呼ばれることもあります。
売上税額が120万円、控除できる仕入税額が50万円なら、納付額は70万円です。
120万円 − 50万円 = 70万円
実際の仕入れや設備投資が多いほど、控除額が大きくなる場合があります。ただし、経費のすべてが控除対象になるわけではありません。給与や一定の非課税取引などを区分し、インボイス等の保存要件も確認します。[出典:国税庁・納付税額の計算のしかた、国税庁・課税売上げと課税仕入れ]
大きな設備投資をする年は、注意が必要!
原則課税では、たとえば売上税額120万円に対し、設備投資を含む控除可能な仕入税額が150万円なら、差額30万円は還付となり、申告を行うとお金を取り戻すことができます。
一方、簡易課税や2割特例では、設備を多く買ったこと自体で控除額が増えるわけではありません。設備投資の予定は、計算方法を検討するときの重要な情報になります。
なお、課税売上割合などによって全額を控除できない場合もあります。「支払った消費税=すべて控除可能」とは決めずに計算する必要がある点に注意しましょう。[出典:国税庁・仕入控除税額の計算]
3. 簡易課税:事業区分に応じた割合で計算する
簡易課税では、実際の仕入れの税額に代えて、売上税額に「みなし仕入率」を掛けた金額を差し引きます。
みなし仕入率は、事業の種類に応じて決まる割合です。実際の経費率ではありません。
事業区分の代表例 | みなし仕入率 |
|---|---|
第1種:卸売業 | 90% |
第2種:小売業など | 80% |
第3種:製造業・建設業など | 70% |
第4種:飲食店業など | 60% |
第5種:サービス業など(飲食店業を除く) | 50% |
第6種:不動産業 | 40% |
農林水産業は飲食料品の譲渡かどうかで区分が異なるなど、細かなルールもあります。また、仕事の肩書きだけでなく、実際に行う取引の内容で判断します。[出典:国税庁・簡易課税制度の事業区分]
たとえば「クリエイター」でも、制作サービスの提供、商品の仕入販売、自分で製造した物の販売では、同じ区分とは限りません。複数の事業がある場合は、売上を分けて管理することが大切です。
第5種・みなし仕入率50%なら、納付額も売上税額の50%
売上税額120万円の場合、次の計算です。
120万円 − 120万円×50% = 60万円
実際の経費が少なくても、条件を満たせばこの割合で計算します。一方、実際の経費が増えても、それを理由に控除額が増えるわけではありませんので実際の経費率がみなし仕入率を超える可能性がないかに注意が必要です。
使うには届出と売上規模の条件がある
簡易課税は、原則として、適用する課税期間の開始前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出し、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることなどが必要です。通常の個人事業主の基準期間は2年前です。
また、選択すると原則として2年間は継続適用が必要です。「年が終わってから、毎年自由に安い方法を選ぶ」制度ではありません。[出典:国税庁・簡易課税制度]
4. 2割特例:対象者は売上税額の2割を納付する
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった方の負担を軽くする措置です。
売上税額120万円 × 20% = 納付額24万円
「売上の2割を納める」制度ではありません。基になるのは、売上に係る消費税額です。
業種ごとのみなし仕入率や、実際の仕入税額を使わずに計算します。事前の届出は不要で、確定申告書に適用する旨を記載します。[出典:国税庁・2割特例の概要]
小規模なら誰でも使えるわけではない
インボイス登録をしていても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、登録とは関係なく課税事業者となる場合は対象外です。特定期間による判定、高額な資産の取得に伴う制限、課税期間の短縮などにも注意が必要です。
簡易課税の届出をしている方でも、2割特例の要件を満たせば、申告時に2割特例を選べる場合があります。[出典:国税庁・2割特例特設ページ]
2027年以降は3割特例も確認する
課税期間を短縮していない個人事業主の場合、2割特例の対象範囲は2026年分までです。2027・2028年分には、一定の個人事業主向けの3割特例があります。
前年まで2割特例を使っていても、自動的に次の年の適用が決まるわけではありません。対象年と要件を確認しましょう。
関連記事:2割特例はいつまで?2027年からの3割特例と個人事業主の準備
5. 同じ売上1,320万円(税込)で、納付額を比較してみよう
2026年の国内サービス業を想定します。
年間売上:税込1,320万円、売上税額120万円
外注費等:税込550万円、控除可能な仕入税額50万円
すべて税率10%で、仕入税額は全額控除できる
簡易課税の場合は第5種事業・みなし仕入率50%と仮定
計算方法 | この条件での納付額 |
|---|---|
原則課税 | 120万円−50万円=70万円 |
簡易課税(第5種) | 120万円−60万円=60万円 |
2割特例 | 120万円×20%=24万円 |
この例では2割特例の納付額が最も小さくなります。しかし、どの事業者でもこの結果になるわけではありません。
たとえば原則課税で控除できる仕入税額が108万円なら、納付額は12万円です。2割特例の24万円より小さくなります。
また、簡易課税でも卸売業ならみなし仕入率は90%なので、売上税額120万円に対する納付額は12万円です。
「特例だから必ず最安」ではなく、使える制度について、自分の売上と取引内容で比較することが大切です。
6. どれを選ぶ?確認する順番と届出の注意点
まず使える方法を絞り、その後で税額を比べる
比較の順番は、次のとおりです。
対象年を確認する。 2026年分なのか、2027年分なのかを確認する。
適用条件を確認する。 登録状況、過去の売上、提出済みの届出、資産購入に伴う制限を確認する。
税額を試算する。 原則課税の控除可能額と、簡易課税の事業区分、特例の割合で計算する。
翌年以降も考える。 大きな設備投資や事業内容の変更予定を確認する。
試算で安くても、届出期限を過ぎて使えなければ選択肢にはなりません。特に、すでに簡易課税の適用がある場合は、原則課税に戻れる時期も確認します。
2割・3割特例の翌年は、届出期限の特例がある
2026年度改正により、2割特例・3割特例を適用した翌課税期間については、その翌課税期間の申告期限までに届出書を提出することで、簡易課税へ移れる取扱いがあります。
通常の個人事業主なら、2026年分で2割特例を使い、2027年分から簡易課税を使う場合、2027年分の消費税申告期限である2028年3月31日までの届出が可能です。簡易課税自体の要件も満たす必要があります。
これは一定の場合の特例です。すべての方が申告直前まで選択を待てるわけではありません。[出典:国税庁・2割特例や3割特例を適用した課税期間後の簡易課税制度の選択]
計算が簡単でも、資料の保存は続ける
簡易課税や2割・3割特例では、消費税の納付額の計算のために仕入先のインボイスを集める必要はありません。ただし、所得税の経費確認などに必要な請求書・領収書の保存は続けます。[出典:国税庁・インボイス制度について]
制度を選ぶためにも、まず売上と支出の記録をそろえることが出発点です。将来、原則課税へ移る場合にも、取引内容がわかる記録が役立ちます。






