1. 「制度の判定」と「経費の計算」は分けて考える
「35万円で買ったパソコンを、仕事で70%、私用で30%使っている。経費はどう計算すればいい?」
こんなときに登場するのが、家事按分です。仕事と私生活の両方で使うものについて、事業で使う分を分けることをいいます。
今回は家事按分の考え方と少額減価償却資産及び一括償却資産の判定の関係を解説します。
結論。少額減価償却資産及び一括償却資産の判定と家事按分の順番は、次のとおりです。
パソコン全体の取得価額で、使える制度(少額減価償却資産・一括償却資産)を確認する。
選んだ制度でその年の償却額などを計算し、事業で使った分を経費にする。
たとえば、35万円のPCを仕事で70%使う場合、制度の判定に使うのは35万円です。24万5,000円ではありませんので注意しましょう。
少額の資産に関する金額基準は、通常取引される単位ごとの取得価額で判断します。一方、仕事と私用に共通する支出のうち必要経費になるのは、業務に必要な部分として明確に区分できる金額です。この2つを分けて考えましょう。[出典:国税庁・所得税基本通達49-39、国税庁・必要経費の知識]
なお、この記事の「取得価額」は、購入代金に取得に必要な付随費用などを含め、採用している税込経理・税抜経理に応じて計算した金額です。消費税の免税事業者は税込金額で判定します。[出典:国税庁・減価償却のあらまし]
関連記事:税込経理と税抜経理の違いは?パソコンの経費判定はどちらの金額?
2. 35万円のPCを仕事で70%使うと、経費はいくら?
ここでは、次のケースで考えます。
項目 | 今回の条件 |
|---|---|
買ったもの | 新品のパソコン1台(サーバー用を除く) |
取得価額 | 35万円 |
購入・使用開始 | 2026年7月1日 |
事業使用割合 | 70% |
申告の条件 | 青色申告で、40万円未満の特例の対象者・年間上限などの要件を満たす |
特例を使う場合:24万5,000円をその年の経費にする
2026年4月1日以後に取得する資産について、少額減価償却資産の特例の取得価額基準は、30万円未満から40万円未満に引き上げられました。
今回のPCは35万円なので、金額の条件を満たします。特例を使う場合、その年の必要経費は次のとおりです。
35万円 × 70% = 24万5,000円
私用分の10万5,000円は、事業の経費にはなりません。
また、この特例では、年の途中から使い始めても通常の減価償却のような月割計算はしません。今回の条件なら、7月に使用を始めても24万5,000円を2026年の経費にできます。
特例の適用には、青色申告などの要件のほか、対象期間中に取得して業務に使い始めることが必要です。現在の適用期限は2029年3月31日です。[出典:国税庁・減価償却のあらまし]
関連記事:少額減価償却資産の特例は40万円未満へ――35万円で買ったパソコンはどう経費にする?
通常の減価償却をする場合:2026年は3万625円
特例を使わず、数年に分けて経費にする方法もあります。
個人事業主が償却方法を届け出ていない場合、通常、パソコンの法定償却方法は定額法です。新品の一般的なPCの耐用年数は4年なので、今回の条件では次の計算になります。
35万円 × 0.250 × 6か月 ÷ 12か月 = 4万3,750円
このうち、事業で使う70%を経費にします。
4万3,750円 × 70% = 3万625円
「特例なら24万5,000円、通常の減価償却なら初年は3万625円」。経費になる時期は変わりますが、私用分まで経費にできるわけではない、という点は同じです。[出典:国税庁・減価償却のあらまし、国税庁・定額法と定率法による減価償却、国税庁・パーソナルコンピュータの耐用年数]
関連記事:減価償却って何?パソコンの購入でわかる、経費を分ける仕組み
3. 12万円・25万円・50万円のPCではどうなる?
家事按分で間違えやすいのは、「仕事で使う分が基準額未満なら、その制度を使える」と考えてしまうことです。
ここでも、すべて事業使用割合70%として見てみましょう。
12万円のPC:仕事分は8万4,000円でも「10万円未満」ではない
12万円 × 70% = 8万4,000円ですが、PC全体の取得価額は12万円です。
そのため、取得価額10万円未満の資産として、その年に全額を経費にする処理はできません。
一方、12万円は20万円未満なので、3年間で均等に経費にする「一括償却資産」を選べます。3年間とも事業使用割合が70%なら、各年の必要経費は次のとおりです。
12万円 ÷ 3年 × 70% = 年2万8,000円
また、40万円未満の特例の要件を満たしていれば、その年に8万4,000円を経費にする選択もできます。
25万円のPC:仕事分は17万5,000円でも「20万円未満」ではない
25万円 × 70% = 17万5,000円でも、一括償却資産は選べません。判定に使う25万円が20万円以上だからです。
40万円未満の特例の要件を満たす場合は、17万5,000円をその年の経費にできます。特例を使わない場合は、通常の減価償却を行います。
50万円のPC:仕事分は35万円でも「40万円未満」ではない
50万円 × 70% = 35万円でも、40万円未満の特例は使えません。
PC全体の取得価額が50万円なので、通常の減価償却を行い、その年の償却額のうち事業で使う部分を経費にします。
なお、各制度の金額基準は「未満」です。取得価額がちょうど10万円・20万円・40万円の場合、それぞれの「未満」の制度には入りません。[制度の金額基準:国税庁・減価償却のあらまし]
4. 年間300万円枠と償却資産申告はどう扱う?
35万円のPCを仕事で70%使う例に戻りましょう。経費は24万5,000円ですが、ほかの場面でもすべてこの金額を使うわけではありません。
特例の年間300万円枠では「35万円」を使う
40万円未満の特例には、対象資産の取得価額の合計で年間300万円という上限があります。
この枠で数えるのは、家事按分後の経費額ではなく、按分前の取得価額35万円です。
たとえば、すでに特例を使う資産の取得価額が合計270万円あるなら、今回のPCを加えると305万円になります。経費が24万5,000円だから「294万5,000円で収まる」とは考えません。
上限に近い場合は、どの資産に特例を使うかを選び直し、通常の減価償却などと組み合わせて検討しましょう。なお、年の途中で開業・廃業した場合などは、年間上限の月数按分にも注意が必要です。[出典:国税庁・減価償却のあらまし、中小機構・少額減価償却資産の特例]
償却資産申告の取得価額も「35万円」を記載する
所得税で一度に経費にしても、償却資産税の申告まで不要になるわけではありません。
今回のPCに40万円未満の特例を使い、翌年1月1日時点で事業用資産として所有している場合は、原則として償却資産申告の対象です。
この申告で記載する取得価額は、事業使用割合70%を掛けた24万5,000円ではなく、PC全体の35万円です。豊中市の案内でも、事業専用割合にかかわらず、取得価額全額が申告対象と説明されています。[出典:豊中市・償却資産について]
ただし、35万円がそのまま課税標準額や税額になるわけではありません。償却資産税では別途評価額を計算し、同じ自治体内にある対象資産の課税標準額の合計などで課税の有無を判断します。
償却資産の免税点は、2026年度までは150万円、2027年度以後は180万円です。同一市町村内の対象資産の課税標準額の合計が、その年度の免税点未満なら、原則として税金はかかりません。ただし、申告の要否は別に確認しましょう。[出典:大阪市・償却資産に関するよくあるご質問]
関連記事:償却資産申告とは?個人事業主が確認したい対象資産・期限・免税点
5. 仕事で使う割合は、どう決める?
この記事では70%で計算しましたが、「PCなら70%でよい」という共通の決まりはありません。
実際の使い方に合う、説明できる割合を設定することが大切です。
たとえば、一定期間の使用記録を確認し、仕事で使った時間が合計70時間、私用で使った時間が30時間なら、使用時間をもとに70%とする考え方があります。平日だけでなく、休日の私用も含めて確認しましょう。
残しておきたいのは、割合そのものに加えて、次のような根拠です。
何を基準に分けたか:使用時間など
どの期間を確認したか:普段の使い方を反映する期間
どのように計算したか:仕事70時間 ÷ 全体100時間など
確認に使った記録:使用ログ、業務日報、予定表など
業務内容や使い方が変わった場合は、割合も見直します。国税庁も、業務の内容や資産の利用状況などを総合的に考慮し、業務に必要な部分を区分する考え方を示しています。[出典:国税庁・所得税基本通達45-1、45-2]
6. 会計ソフトに入力する前の確認ポイント
最後に、今回のPCの金額を整理しておきましょう。
確認する場面 | 使う金額・割合 |
|---|---|
40万円未満かどうかの判定 | 35万円 |
特例の年間300万円枠に算入する金額 | 35万円 |
事業使用割合 | 70% |
特例を使った場合の必要経費 | 24万5,000円 |
償却資産申告に記載する取得価額 | 35万円 |
会計ソフトに「取得価額」と「事業専用割合」の入力欄がある場合、今回の例では基本的に35万円と70%を入力します。
取得価額を24万5,000円に減らしたうえで、さらに70%を設定すると、二重に按分してしまうことがあります。ソフトの入力方法を確認し、最終的な必要経費が24万5,000円になっているかをチェックしてください。
領収書・請求書、使用開始日、事業使用割合の根拠をそろえておくと、制度の判定から申告まで確認しやすくなります。






