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奥野佑樹 税理士事務所

インボイスの2割特例の終了と決算期変更によるタックスプランニング—法人が検討すべき論点の整理

    2026.4.6

    本稿では、インボイスの2割特例の終了と、対応策の一つである「決算期変更による適用期間の延長」について、判断に必要な論点を整理します。なお、本稿は特定の決算月への変更を推奨するものではありません。検討に必要な項目を網羅的に把握するための材料としてご活用ください。

    また、個別具体的な税務コンサルティングをご希望の場合は、お問い合わせフォームまでお気軽にご相談ください。

    この記事が役に立つ方

    本記事は以下を満たす法人にとって、とりわけ大きな影響があります。(※個人事業主については2割特例終了後、3割特例に移行するため、本記事では割愛しております。)

    • 現在、消費税の申告で2割特例を適用している(2割特例の対象者や内容は後述参照)

    • 前期の課税売上高が税抜1,000万円以下

    • コンサルティング、コーチング、IT、デザイン、などの仕入れの少ないサービス業を営んでいる(高利益体質である)

    • 売上が成長フェーズにあり、直近および翌期においてもその傾向が継続する見込みである

    • 決算月が9月〜12月で、2割特例の終了が比較的早く訪れる

    • 直近に大きな設備投資の予定がない


    2割特例の対象となる事業者

    ここで、改めて2割特例の対象者を整理しておきたいと思います。

    2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)は、以下の要件をすべて満たす事業者が利用できる制度です。

    • インボイス発行事業者の登録により課税事業者となったこと。 いわゆる「免税→課税」の転換者が対象です。もともと課税事業者であった法人は対象外となります。

    • 基準期間(2期前)の課税売上高が税抜1,000万円以下であること

    • 資本金1,000万円以上で設立された法人でないこと

    • 特定期間(前事業年度の上半期)の課税売上高、または給与支払額が税抜1,000万円を超えていないこと

    • 課税期間の短縮の特例を受けていないこと

    ※より詳細な要件については、国税庁ホームページをご確認ください。


    2割特例の仕組みと終了時期

    2割特例は、消費税の納税額を「売上にかかる消費税額の2割」とすることができる経過措置です。

    通常、消費税の計算では売上税額から仕入税額を差し引いて納税額を求めますが、2割特例では仕入税額の実額に関係なく、売上税額の80%を控除できます。仕入れや経費が少ないサービス業などでは、本則課税や簡易課税と比較して納税額が大幅に軽減されるケースが多い制度です。

    この制度の適用期限は、「令和8年(2026年)9月30日の属する課税期間」であることが本年の税制改正で確定しました。

    個人事業主の場合は令和8年分(2026年12月末)が最後の適用となります。来年以降は時限的に3割特例に変更されたうえで軽減措置が継続します。なお個人事業主は課税期間が暦年(1月〜12月)で固定されているため、決算期変更による消費税対策は行うことが出来ません。

    一方、法人については事業年度(=課税期間)を定款で自由に定めることができるため、決算月によって終了時期が異なります。

    決算月別 — 2割特例はいつまで使えるか

    現在の決算月ごとに、2割特例が適用される最後の事業年度を以下の表にまとめました。

    現在の決算月

    令和8年9月30日を含む事業年度

    2割特例の最終適用期限

    9月末決算

    令和7年10月〜令和8年9月

    令和8年9月末

    10月末決算

    令和7年11月〜令和8年10月

    令和8年10月末

    11月末決算

    令和7年12月〜令和8年11月

    令和8年11月末

    12月末決算

    令和8年1月〜令和8年12月

    令和8年12月末

    1月末決算

    令和8年2月〜令和9年1月

    令和9年1月末

    2月末決算

    令和8年3月〜令和9年2月

    令和9年2月末

    3月末決算

    令和8年4月〜令和9年3月

    令和9年3月末

    4月末決算

    令和8年5月〜令和9年4月

    令和9年4月末

    5月末決算

    令和8年6月〜令和9年5月

    令和9年5月末

    6月末決算

    令和8年7月〜令和9年6月

    令和9年6月末

    7月末決算

    令和8年8月〜令和9年7月

    令和9年7月末

    8月末決算

    令和8年9月〜令和9年8月

    令和9年8月末

    決算期変更による適用期間の延長

    法人は定款変更により決算月を自由に変更できます。したがって、この仕組みを利用して、「令和8年9月30日を含む課税期間」の開始時点を移動させることで、2割特例の適用期間を延長が可能となります。

    例えば、9月決算の法人が8月決算に変更した場合を考えます。

    変更前は、令和7年10月〜令和8年9月の事業年度が最後の適用対象でした。8月決算に変更すると、令和8年9月〜令和9年8月の事業年度に令和8年9月30日が含まれるため、この期間まで2割特例を適用できます。結果として、最大11ヶ月間の延長が可能になります。

    以下は、各決算月の法人が8月決算に変更した場合の延長期間の一覧です。

    現在の決算月

    現在の適用期限

    8月末決算変更後の適用期限

    延長期間

    9月末決算

    令和8年9月末

    令和9年8月末

    11ヶ月間

    10月末決算

    令和8年10月末

    令和9年8月末

    10ヶ月間

    11月末決算

    令和8年11月末

    令和9年8月末

    9ヶ月間

    12月末決算

    令和8年12月末

    令和9年8月末

    8ヶ月間

    1月末決算

    令和9年1月末

    令和9年8月末

    7ヶ月間

    2月末決算

    令和9年2月末

    令和9年8月末

    6ヶ月間

    3月末決算

    令和9年3月末

    令和9年8月末

    5ヶ月間

    4月末決算

    令和9年4月末

    令和9年8月末

    4ヶ月間

    5月末決算

    令和9年5月末

    令和9年8月末

    3ヶ月間

    6月末決算

    令和9年6月末

    令和9年8月末

    2ヶ月間

    7月末決算

    令和9年7月末

    令和9年8月末

    1ヶ月間

    8月末決算

    令和9年8月末

    令和9年8月末


    延長のメリットが大きいケース

    決算期変更による延長の効果は、法人の状況によって大きく異なります。以下の条件に当てはまるほど、延長のメリットは大きくなります。

    ①仕入率が低い(利益率が高い)業種であること

     2割特例の終了後に簡易課税を選択する場合、業種ごとのみなし仕入率と2割特例の控除率(80%)との差額が、延長によって得られる節税額を左右します。サービス業(第5種・みなし仕入率50%)やコンサルティング業などは差額が大きく、延長の効果が顕著です。

    ②売上が成長している法人であること

     2割特例の適用要件は「基準期間(2期前)の課税売上高が1,000万円以下」であり、当期や翌期の売上高は関係しません。したがって、基準期間の売上が1,000万円以下であれば、当期の売上が例えば3,000万円に達していても2割特例を適用できます。成長中の法人ほど、延長期間中に得られる節税効果の絶対額は大きくなります。

    ③大きな設備投資の予定がないこと

    大規模な設備投資を控えている場合は、本則課税を選択して仕入税額控除(場合によっては還付)を受けるほうが有利になることがあります。その場合、2割特例の延長よりも早期に本則課税へ移行したほうがよいケースもあります。

    延長のメリットが小さい、またはデメリットになるケース

    ①卸売業など、簡易課税のみなし仕入率が高い業種

    卸売業(第1種・みなし仕入率90%)では、簡易課税の控除率が2割特例(80%)を上回るため、そもそも簡易課税を選択したほうが有利です。延長のために決算期を変更する意味がありません。

    ②赤字、または利益が小さい法人

    消費税の納税額自体が小さいため、延長による節税効果の絶対額も限定的です。決算期変更に伴う手間と比較して検討する必要があります。


    具体的ケース

    メリットが大きいケースを仮定して、具体的な試算を行うと以下のようになります。

    前提条件

    • 業種:コーチング業(簡易課税 第5種・みなし仕入率50%)

    • 9月末決算法人

    • 前々期の売上高:700万円(税抜)

    • 前期の売上高:900万円(税抜)

    • 当期の売上高:1,500万円(税抜)

    • 来期の売上高:2,000万円(予測)

    • 役員報酬等を除いた経費率(本来の消費税の仕入率):30%

    パターンA:決算期を変更しない場合

    事業年度

    売上高

    適用される計算方式

    令和7年10月〜令和8年9月

    1,500万円

    2割特例(最後)

    令和8年10月〜令和9年9月

    2,000万円

    簡易課税 or 本則課税

    当期で2割特例が終了し、来期は簡易課税or本則課税を選択することになります。(通常は簡易課税を選択することが多いでしょう)

    パターンB:8月末決算に変更した場合

    令和7年10月〜令和8年9月の事業年度を、令和8年8月末で区切る形に変更します。

    事業年度

    期間

    適用される計算方式

    令和7年10月〜令和8年8月

    11ヶ月(短期事業年度)

    2割特例

    令和8年9月〜令和9年8月

    12ヶ月

    2割特例(延長分)

    令和9年9月〜令和10年8月

    12ヶ月

    簡易課税 or 本則課税

    8月末決算に変更した結果令和8年9月1日に新しい事業年度が始まり、この期に令和8年9月30日が含まれるため、2割特例がもう1期適用されることとなります。

    延長期間の消費税比較(売上2,000万円の場合)

    パターンBで延長した期(令和8年9月〜令和9年8月)の消費税額を、各計算方式で比較します。

    売上税額:2,000万円 × 10% = 200万円 ここから仕入税額(仕入税額控除)を引いたものが納税額となります。2割特例と簡易課税は%でみなして計算します。

    計算方式

    計算

    納税額

    2割特例

    200万円 × 20%

    40万円

    簡易課税(第5種)

    200万円 × 50%

    100万円

    本則課税

    200万円 −(2,000万円 × 30% × 10%)

    140万円

    2割特例と簡易課税の差額は60万円、本則課税との差額は100万円です。

    この法人の場合、決算期を8月末に変更して2割特例を1期延長することで、適切な税対策が可能になります。売上が成長中であるにもかかわらず基準期間の要件を満たしているため、延長の効果が大きくなることが良く分かります。成長角度の大きい企業などは決算期変更に一考の余地があるでしょう。


    決算期変更に伴う他の影響やコスト

    決算期は企業運営上重要な要素のため、変更すると付随して発生する影響が存在します。延長のメリットと以下の事項を比較した上で判断してください。

    ①当期が1年未満となることに伴う税額計算等への影響

    決算月を変更すると、変更時に1年未満の事業年度が発生します。法人住民税の均等割や交際費の算入上限、中小企業の軽減税率の対象となる所得金額(年800万円)、減価償却費など月割で計算される要素に注意が必要です。

    ②役員報酬の改定機会

    法人税法上、定期同額給与の改定は原則として事業年度開始から3ヶ月以内に行う必要があります。決算期変更により新たな事業年度が始まるため、改定の機会が前倒しで得られます。報酬額の見直しを予定している場合は、副次的なメリットとなり得ます。

    ③届出・申告スケジュールの変化

    決算月が変わることで、法人税・消費税の確定申告期限も変わります。決算期変更を行った場合、適切に確定申告スケジュールを遂行できるかの事前検討が必要です。また納税資金の確保にも気を配る必要があります。

    ④前年度比較の難易度向上

    決算期変更をおこなうと単純な前期比較での経営分析は難しくなります。

    ⑤各種手続きの発生

    以下に述べるような直接的な手続きコストのほか、場合によってはシステム等の改修が必要な可能性も視野にいれる必要があります。また主要な取引先や金融機関との取引において影響がある場合は事前の通知が望ましいでしょう。


    決算期変更の手続き

    決算期変更の手続きは以下のとおりです。

    1. 臨時の株主総会(合同会社の場合は社員総会)を開催し、定款の事業年度に関する条項を変更する決議を行う。

    2. 所轄税務署に異動届出書および添付書類を提出する。

    3. 都道府県税事務所および市区町村に異動届および添付書類を提出する。

    ※許認可が必要な事業を行っている場合は管轄の省庁等への届出が必要ないかも合わせて確認しましょう。


    まとめ

    2割特例の終了時期は、法人の決算月によって異なります。決算期変更による適用期間の延長は、一定の条件を満たす法人にとって有効な選択肢です。

    一方で、税額計算への影響や申告スケジュールの変化など、複数の事象を伴います。延長によって得られる金額と、変更に伴う影響を比較した上で、自社にとって最適な判断をしていただければと思います。

    なお、個別具体的な税務コンサルティングをご希望の場合は、お問い合わせフォームまでお気軽にご相談ください。

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    文責:奥野佑樹税理士事務所 代表 奥野佑樹